・カタルーニャ音楽堂・


バルセロナ市内には、8つのユネスコの世界遺産の建造物が点在する。

連日、様々なジャンルの演奏会が行われているカタルーニャ音楽堂も、その中の一つ。

正面玄関の右手の角には「カタルーニャ民謡」と題された石像群がある。

頂に、騎士姿のカタルーニャの守護神・聖ジョルディ、その下には子供、老人、様々な職業の人々、そしてそれらを率いるような乙女の姿は、まるで帆船の船首の女神像の如く、音楽堂の前進を導いているよう。

19世紀半ばから20世紀前半にかけて、スペインで最も早く産業革命と都市化が進んだバルセロナ。

裕福な市民層に支えられた市内は、華やかな装飾のモデルニスモ様式の建築ラッシュを迎え、1888年にはパリやロンドンに続き万博を成功させ、自信と誇りと富は、芸術・文化をも潤した。

ガウディが活躍し、若きピカソが謳歌した時代。

カタルーニャ語の詩が、文学が、誇り高く語られ始めた時代。

 

そんな活気に満ちていた1891年、Orfeó Català:カタルーニャ語でウルフェオ・カタラーという、アマチュアの合唱団が結成された。

当時バルセロナで開催された世界合唱コンクールに刺激を受けた、2人の若い音楽家の発案だった。

結成時の会員は全員男性で65名、音楽の知識のないメンバーもいたという。

その後、音楽学校の創設、女声合唱団結成、今日まで続く「カタルーニャ音楽誌」の刊行を始めるなど、ウルフェオ・カタラーはその規模と影響力を増していった。

この合唱団の本拠地として、結成17年目に建設されたのが、カタルーニャ音楽堂である。

1908年の杮落としには、2000余りの座席が埋め尽くされたと云う。

地元の建築家、リュイス・ドメネク・イ・ムンタネー作のこの音楽ホール、カタルーニャの民謡とヨーロッパの優れた音楽への賛美を込めて、至る所にそのシンボルが埋め込まれている。

正面玄関にはパレストリーナ、バッハ、ベートーヴェン、右側外壁にはバルセロナで大人気だったワーグナーの胸像。

クリスタルの壁とステンドグラスの天井から入ってくる自然の光、至る所にちりばめられたモデルニスモの装飾、ホールに入るとまるで異次元に迷い込んだ気分に誘われる。

左側を見上げると、カタルーニャ民謡の復興運動の父と呼ばれるA. クラベーの胸像。その下には彼が作曲した歌に登場する女性たちの姿。向かい側にはベートーヴェン、上部にはワーグナーのオペラ「ワルキューレ」の1シーン。

舞台には上半身を乗り出した18の女神たち、それぞれ異なる衣装と楽器を携えている。

身体をひねりフラメンコを踊る姿もあれば、古楽器を演奏する女神も。

時間と空間を超えた音楽の集いを意味するそうだ。

 

この個性的な舞台には、リヒャルト・シュトラウスやストラヴィンスキー、カラヤン、エラ・フィッツジェラルド、パコ・デ・ルシアを始め、様々な分野の著名人が立ち、ロドリーゴのアランフェス協奏曲やグラナドスのゴイエスカス他、今日も愛され続けるいくつもの作品の世界初演が行われるなど、語り切れない歴史の数々が刻まれている。

ウルフェオ・カタラーとの共演、カタルーニャ音楽堂にて。

合唱団ウルフェオ・カタラーの創始者は、指揮者リュイス・ミリェと作曲家アマデウ・ビーベス。

リュイス・ミリェが作曲した団歌は、地元で良く知られている歌。

カタルーニャの旗への賛美。

因みに、フランコ独裁政権下では、演奏を禁止(1939~1960)されていたと云う。

リュイス・ミリェ(ウルフェオ・カタラー創始者)

もう一人の創始者アマデウ・ビーベスは、後にマドリッドでサルスエラの作曲家として名を馳せる。

彼がウルフェオ・カタラーに捧げた歌「移民」は、今もカタルーニャの人々が目頭を熱くして口ずさむ歌。

 

優しいカタルーニャよ、わが心のふるさと。

故郷から遠く離れる者は、哀愁に傷悴する。

 

さよなら父よ、兄弟よ。再び会うことは無いだろう。

優しき母の眠る墓の傍らに、横たわることが出来るならば。

 

おお、水夫たちよ、私を故郷から引き離す風は、何と私を苦しめることか!

あぁ、病の私を故郷に帰しておくれ、そこで永遠の眠りにつけるように。

テキスト:J. ベルダゲー

現在、カタルーニャ合唱連盟に登録されている合唱団の数は520に上る。

そして、アマチュア合唱団のウルフェオ・カタラーは、今もカタルーニャ合唱文化の中心として、美しいハーモニーを世界の舞台で披露する。

その彼らの本拠地、カタルーニャ音楽堂は今年で建設110年目。

修復と増築を重ね、相変わらず地元の愛好家たちに支えられながら、その個性溢れる様相と美しい響きを提供し続けている。

 

今宵はピアニストの演奏会。

耳に、目に、心に、贅沢が出来そう。


音楽堂内のバールの入り口のランプには、ウルフェオ・カタラーと赤い文字

2018年11月 バルセロナ